2015年は、ベルギーのゲールで5年に1回のお祭りが行われる年である。
2000年のお祭り以来、毎回参加し続けきた。
お祭りのメインは、ゲールの守護聖人である聖ディンプナのオメガング(宗教行列)。
これまで、聖ディンプナの命日とされる5月15日前後にオメガングが行われてきたが、今年はなぜか5月3日に。
日本のゴールデンウィークの真っ只中である。
(マーケット広場に掲げられた聖ディンプナ・オメガングのポスター)
ただ、私のゲール訪問は、OPZ を訪れないことには、はじまらない。
OPZ とは、この地域の精神医療を担う「精神医学ケア・センター(Openbaar Psychiatrisch Zorgcentrum)」の略称。
ゲールを世界的に有名にしてきた精神障害者の里親制度の管理・運営を担っているのが、この OPZ である。
(1862年にオープンしたOPZの古い建物だが、1〜2年前に建物をリノベーションしている。)
つい最近、この OPZ のなかに、ゲールの精神障害者の里親制度の歴史と現状などを紹介する、見学者センターがオープンしたという。
建設される過程で、以前もこのブログでこのセンターのことを紹介している。
「
OPZ (Openbaar Psychiatrisch Zorgcentrum Geel) を訪ねて」の記事を参照していただきたい。
その記事で、「かつての研究室(ラボラトリー)」とあるのが、改装されて以下の見学者センターのひとつ生まれ変わっていた。
(もともとは、かつての院長の Fritz Sano の研究室だったが、その後「廃屋」状態だった。)
このなかに入ってみよう。
1階は受付と、企画展示室になっている。
ちょうど「Dimpna als muze (ミューズとしてのディンプナ)」展の最中である。
OPZに関わる(元)患者が聖ディンプナを描いた作品が展示されている。
ひとつだけ紹介しよう。
下の作品は、アーティストとしては評価が高いという Karel Laenen のものである。
この作品のモティーフは、聖ディンプナが右足で悪魔を押さえつけ剣で突き刺している、という15世紀くらいから使われだした有名なイコノグラフィから来ている。
この「悪魔」つまり「精神病」を退治するイコンは、聖ディンプナと精神病治療との関わりを示すものと理解されている。
下の作品では、旧来のイコンが発する重たさが、カラフルなタッチで軽々と乗り越えらているように見える。
(悪魔を剣で突き刺す聖ディンプナのイコンの別バージョン、ということか。)
建物の2階には、映像設備がある空間と、「yellow ART」の部屋がある。
「yellow ART」とは、いわばゲール(Geel は、オランダ語の形容詞 geel [黄色い]と同じスペル)におけるアール・ブリュットのブランド名である。
「yellow ART」の部屋で作品を自由にみてもらい、展覧会への作品の出展や作品の販売を促進しようという意図があるようだった。
(2階のスペース。黄・青・赤が見学者センター全体のカラー・コンセプトである。)
元「研究室」の建物の向かいには、歴史展示をしている建物がある。
もともとは、農作業で使う器具などを収納していた倉庫である。
(もととは倉庫だったが、歴史展示用に内部は大改装された。)
以前、改修前に訪れたときには、ガラクタ置き場のようになっていたが、建物の骨格を活かした展示スペースに変身していた。
公式のオープンはまだだそうだが、特別に中に入れてもらった。
博物館というと、しばしば物品を過剰に展示する傾向があるが、ここはいたってシンプル。
もっとも、精神医学史となると、古い電気ショックの機器とか、カルテぐらいしか、展示物がないのも事実。
それも、どこの精神医学史の博物館でも普遍的に見られるものが多い。
こうした「余分なもの」がなく、ゲールの精神医学の歴史に特化しているのが、ここの特徴だろう。
(中央にあるモニター画面をタッチすることで、より詳細な情報が得られる。ただし、目下、オランダ語の情報しかないので、急いで英語版を用意しているとか。)
(展示室の窓を覆っているのは、ゲールの患者の写真。1902年にアントワープで開かれた精神科家庭的看護の国際会議にあわせて用意されたものだという。)
他方、ゲール・ブランドのアール・ブリュット yellow ART (下の写真には Yellow Art とあって、ロゴに統一性がないが)の制作現場は、以前の建物から引っ越して、やはり改装して新しくなった別の建物に引っ越した(下の建物)。
(この建物のなかで、「Yellow Art」が作られている。 )
制作現場は、わくわくするものがある。
休日で制作者は誰もいないのだが、やりかけの状態から制作者の息遣いが感じられる。
(水彩のパレット)
(作品かどうかわからないが、紙の上に石が並べられていた。)
というわけで、OPZの見学者センターなどを見たあと、案内役のBさんと街の広場まで行き、レストランに入った。
Bさんとは1年ぶりで、この間の出来事などを話した。
(ヘルシー路線でサラダを注文、それと kriek [サクランボのビール] は欠かせない。)
食事のあと、すぐ近くの空き店舗内に設置された Geel FM のスタジオへ。
お祭りにあわせて3日間限定のFM局だという。
誰でも1曲1ユーロ(だったか)で楽曲をリクエストでき、そのお金はOPZの資金になるとか。
OPZもなかなか商売上手である。
(OPZのスタッフが運営するGeel FM のスタジオ)