近代日本精神医療史研究会

Society for Research on the History of Psychiatry in Modern Japan
飯山由貴 個展 『あなたの本当の家を探しにいく/ ムーミン一家になって海の観音さまに会いにいく』を見にいく

東京・JR恵比寿駅から、ちょっと、さまよう。
このへんだろう、と思っていた場所に目的地が見つからない。
人に場所をたずねながら、なんとか個展会場を探しだした。
ビルの薄暗い階段を上ると展示があった。

展示のテーマをざっくり言えば、作家自身の妹の幻聴や幻覚と付き合うということである。
それが映像・音声などとして記録され、編集されたものが二つの作品として映し出されている。

パンフレットによれば、

ひとつは、“妹が「本当の家を探しにいく」と言ったので、作家が一緒に夜の町に散歩しに行って、本当の家を探しにいく試み”であり、

もうひとつは、“ムーミン一家になって、幻聴や幻覚を再現する試みのスライド”である。
内容は、“ムーミン一家と一緒に、自分は妖精になって海の観音さまに海の平和をお祈りしに行くという”もの。
こちらは、スライド撮影中の記録映像も合わせて上映されている。

しかし、たぶん展示はこれだけでは完結しない。
会場で配られているパフレットも、展示の理解には欠かせない。
その冒頭には、作家が、入院中の妹をよく知る看護師に宛てた今回の個展を知らせる手紙のテキストが掲げられ(これは会場入り口にも掲げられてはいるが)、
途中には、精神医学、インタビュー、妹の幻聴・幻覚になどに関わるさまざまな記事があるが、
最後は、その看護師からの返信で締めくくられている。

作家の言う“家の中で行うアマチュア?によるケア”が、上記の二つの映像作品に関わるものだとすれば、作家の言う“病院や施設の中で行われるプロの人によるケア”と“アマチュア?によるケア”が交錯する場面として、手紙が効果的に使われているのかもしれない。

その“プロの人によるケア”関連ということだろうか、会場には精神医学の歴史に関わる展示もある。
作家がとくに着目したのが、かつての精神病院の診療録(カルテ)の類と思われる。
私が作家から直接伺ったところを総合すると、古いスクラップ・ブックから広がるイメージが、作品制作の重要なモチベーションであり、これが昔の診療録と相通じるところがあるようだ。
作家の2013年の個展『湯気 けむり 恩賜』は、ハンセン病を扱った展示だそうだが、ここでもヤフオクで落札したスクラップ・ブックが出発点になっているという(「湯気 けむり 恩賜 ノート」より)。

もうひとつあった。
“『無声映画にまつわるいくつかの共同制作とワークショップの記録』2014”である。
これは、“1926年に日本でつくられた精神病院を舞台にした無声映画「狂った一頁」(The Page of Madness)に新しい伴奏をつけてもらう試み”という。

最初、なんの情報もないままに、投影されている動画を見たときには、よくできた精神病院内の記録映像だと錯覚した。
それくらい、リアリティがあるのだ。

が、ふと、こちらが「リアル」な記録映像で、反対に、作家の上記の二つの映像作品が、すべて緻密な台本にもとづく演技・演出だとしたら、それらの作品がどう見えてくるのか、と考えた。
創作された幻聴・幻覚は、興ざめなんじゃないだろうか。
たぶん、多くの鑑賞者は「リアル」な幻聴・幻覚に「価値」を求めているだろう。
では、「リアル」な幻聴・幻覚とは?

そもそも、(私が「狂った一頁」を見たときのように)「患者の幻聴・幻覚」という舞台設定を知らないで(多くの鑑賞者はその前提を知って見ているはずである)、作家の二つの映像作品を見たときに、なにが想起されるのか?
いや、この問題設定自体が間違いで、そういう前提と映像とは、一心同体で切り離せない、ということなのか。

そんなことを、つらつらと考えた。


(会場でもらったパンフレットなど)

いずれにしても、私があれこれ「展評」する立場にはないだろうから、関心のある方は、実際に足を運ぶことをお勧めしたい。
なお、展覧会の基本情報は以下のとおり。

個展「あなたの本当の家を探しにいく/ ムーミン一家になって海の観音さまに会いにいく」

会期:2014年9月13日(土)〜 10月19日(日)
営業日:月曜 17:00 〜 23:00 / 金・土・日曜 13:00 〜 19:00
定休日:火曜〜木曜
会場:waitingroom (http://www.waitingroom.jp/)
住所:〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西2-8-11渋谷百貨ビル3F(4B)

| フリートーク | 10:51 | comments(0) | - | pookmark |
精神医療ミュージアム移動展示プロジェクト―私宅監置と日本の精神医療史

いつの頃からか、精神医療史の移動ミュージアムをやったらどうか、と思うようになった。
「ハコモノ」としての博物館は、もはやアナクロニズムかもしれない。
ウェッブ上で展開させるバーチャルな博物館、なんていうのも当たり前すぎる。
とにかく人と同じことはやりたくない。

そんな気持ちで「歴史理解にもとづく精神保健福祉教育プログラムの開発」という、地味っぽいけれども(地味じゃないと研究費もらえないし)、新機軸を盛り込んだつもりの科研費研究(挑戦的萌芽研究)を今年度からはじめた。
そのひとつに移動ミュージアムを掲げている。

そこで、今年の6月くらいから、知り合いの精神保健・医療・福祉関係者の何人かに問うてみた。
一般の人でも関係者・専門家相手でもいいのだが、これらの人に向けた「精神医療史の展示会(+講演会)」を実施したいのだが、と。
すると、「それはいいですね」とか、「いろんなこと考えているんですね」とか、とりあえず、困惑気味だが挨拶程度の反応は返ってくる。

だが、それを実際に引き受けてくれ、協力してくれるかと迫れば、
「しかし、精神医療の歴史を表に出すことは、偏見をむしろ助長する」とか、
「私宅監置?今のことと混同されるかもしれない」とか、
「うーん、考えときますが」とか、

なんとか、かんとかで、結局、誰もいい返事をしないのである。
要するに、観客としてならいいが、面倒なことには関わりたくない、
蒸し返したくない過去には蓋をする、とか、
そういうことなのか、それとも私の「本気度」が伝わらないのか。
別に大きな展示会をするつもりではなく、歴史を通じて精神医療についてみんな考える・語る、という場を設定したいだけなのに。

これが、精神医療史に対する、わが国の一般の人たち(私が伺いを立てているのは、むしろ「専門家」だが)の反応である。

というような話を、大学院の「精神医療史研究特講」という1人対1人の授業で、韓国人の留学生に話していたら、「韓国でなら、できるかも」ということになった。
彼女がいろいろと尽力してくれて、最初はなかなか話も進まなかったものの、しぶとい交渉力が功を奏したようで、気がついたらソウルで展示会の打ち合わせをすることになった。
それが先月、8月の上旬のこと。
急遽ソウルに行った(実に四半世紀ぶり、ソウルの駅前、随分変わったなあ)。
ソウル市内にある人権団体のビルの一室に関係者が集まった。

そこで決めたことは、以下の場所を借りて、今年の11月12〜14日に「精神医療ミュージアム移動展示プロジェクト―私宅監置と日本の精神医療史」の展示と展示内容のプレゼンテーションを行うということ。

 인권재단 사람 · 인권중심 사람
 서울시 마포구 성미산로 10길 26 (서교동 247-38)

 人権財団 サラム·人権中心 サラム
 ソウル市麻浦区ソンミ山路10道26(西橋洞247-38)

目下、鋭意準備作業中である。
詳細はこのブログ上でいずれお知らせしたい。

以下は今回のソウル行きで撮った写真。


ミョンドンのホテルから、表通りに出るところで一枚。


麻浦区の人権団体のビル。
ここが予定会場。


ビル内の会議室。
ここで2時間くらい話し合った。
日本の精神医療の現状を知りたいというニーズが強いこともわかった。
「歴史」を通じて、こうした対話ができることもこのプロジェクトの目的なのである。


会議が終わり、一人で近くのソンミサンにやってきた。
近年、この一帯の「ソンミサン・マウル」は、住民主体の都市型コミュニティとして国内外から注目されている。


最寄りの地下鉄6号線「望遠」駅。
結構、へとへとになってミョンドンのホテルへもどる。

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