2010年11月26日、つまり昨日、龍谷大学瀬田キャンパスで滋賀県精神保健福祉協会などの主催による「報道と精神障害を考えるシンポジウム」が開かれた。
映画『精神』を上映したあと、その監督である想田さんを囲んで、シンポジウムを行うという企画である。
昨年の「報道と精神障害を考えるシンポジウム」で登壇した私は、半ば主催者側という感じで今年も参加することになった。
JR南草津駅に関係者が集合し、車で龍谷大学に行くことになっていた。
ニューヨークにお住まいだという想田さんって、いったいどんな人なのか?
会ってみれば、とても感じのいい、さわやかで、ごく自然体の人だった。
私が『精神』を見るのは、今回が初めてだった。
岡山にある精神科の診療所が舞台で、そこに集う人たちの日常を記録したドキュメンタリー映画である。
ナレーションや解説、音楽はいっさいない。
想田さんがいうところの「観察映画」である。
映画に登場する人には、気の済むまで思い切り語らせている、という感じがある。
おそらく私自身に偏見があって、精神障害を扱ったドキュメンタリーには、これまで少々身構えてしまうところがあった。
つまり、「精神障害者はあくまで世間から人権を踏みにじられた被害者でなければならず、精神医療という巨大な権力のまえでどうすることもできない弱い存在でしかありえない」というゆるぎない確信のもと、でも、すくなくとも自分だけは「弱者の見方だよ」という視点から、「仮想的な権力」へ抵抗するようなスタンスをとってはみるものの、結局は世に言う偏見を確認・追認するだけに終わるような、「人権ごっこ」「福祉ごっこ」というか・・・胡散臭さというか・・・人が撮れないような映像がとれました、「これが精神障害の真相なんです」というスクープ根性というか・・・
だが、『精神』は、そのような私の偏見を心地よく裏切ってくれる。
「話の落としどころ」もとくに用意されていない。
見る人に「あなたはどう思いますか」と常に投げかけている。
とにかく、まめに記録している。
例の「モザイク」もない。
ドキュメントの原点かもしれない。
どんな雰囲気かは、全体を見ないと多分わからないと思うが、『精神』の公式サイトで少しはわかるだろう。
でも、これだけ見て、「はは〜ん、こんなものか」と決して納得しないように。
たぶん、見れば、そうじゃないことがわかるから。
シンポジウムが終わって、関係者(想田さんをはじめ、滋賀県立精神医療センターのスタッフ、龍谷大学の先生とか)でJR南草津駅近くの韓国料理店に行った。
「主賓」は想田さんのはずだが、みんなバラバラに盛り上がっていたようだ(私は龍大のT先生と話し込んでいたので)。
それは、それでよし。
想田監督の次の映画『PEACE』も是非見たくなった。
2010.11.27 Saturday
想田和弘監督の映画『精神』
2010.11.20 Saturday
『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』を読もう(その38)
ふたたび呉秀三・樫田五郎の論文『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』の話をしたい。
『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』を読もう(その36)にも書いたが、この論文中には「精神病ノ民間薬並ニ迷信薬」という節がある。
その最初に挙げられているのが「猿頭(サルガシラ)」である。
その説明によれば(原文は漢字・カタカナ文);
「猿頭は猿の頭蓋骨を黒焼にしたるものにして、頭蓋骨の原型を有するものは一個三、四円を価す、多くは粉末にせしものを一匁幾銭を以て販売す。」
どうも、あまり気持ちのいいものではないが、猿頭がどんなものか興味深々。
そのうち、偶然にも『黒焼の研究』(小泉栄次郎著、大正10年)という本があることを知った。
とある古本屋のカタログに載ったのである。
ただちに注文したが、「売れてしまいました」という。
これに興味を持つ人がいることに驚いた。
だが、webcatで検索し、復刻版をある大学から借りることができた。
この本の冒頭に、いきなり「猿頭(サルノアタマ)」の黒焼きの写真が載っていた。
それによると、猿頭は頭痛に効くそうで、「一匁を白湯にて服用す」という。
(『黒焼の研究』復刻版に掲載されている「猿頭」)
一方、『農業世界』という雑誌(第33巻・第13号、昭和13年)に、「黒焼の薬効と其の製造法」という記事があることを発見した。
著者は「東京神田末広町黒焼商」の菅俣吉之助という人で、「この方法によれば素人にも出来ます」とある。
ここにも「猿頭(さるのあたま)」があり、「血の道、脳病」に効くようである。
また、「猿の頭の黒焼 右にあるのは焼かぬ前」という、猿の生首と黒焼きにされた猿の写真が並べて掲載されている。
(『農業世界』に掲載されている「猿頭」)
まあ、普通なら「これくらいで十分」となるのだが、予期せぬ時に予期せぬ場所で「猿頭」問題が再燃した。
それというのも、2010年10月に宇都宮で行われた精神医学史学会に参加した折、市内で猿頭を売っている(?それとも、展示のみ?)店に出くわしたからである。
学会のスケジュールの関係で、店が開いている時間に店に行けず、店が開いていた時にはもう新幹線が出る時間で、あわてて撮った写真が1枚あるだけだが、ご覧いただこう。
おそらく、栃木県庁周辺にお勤めの方は、毎日ご覧になっていることだろうが・・・
店頭に「猿頭」の文字がある。だが、「ショーケース」が閉まっていて、猿は見られない。
新幹線の時間を気にしながら、撮った一枚。
『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』を読もう(その36)にも書いたが、この論文中には「精神病ノ民間薬並ニ迷信薬」という節がある。
その最初に挙げられているのが「猿頭(サルガシラ)」である。
その説明によれば(原文は漢字・カタカナ文);
「猿頭は猿の頭蓋骨を黒焼にしたるものにして、頭蓋骨の原型を有するものは一個三、四円を価す、多くは粉末にせしものを一匁幾銭を以て販売す。」
どうも、あまり気持ちのいいものではないが、猿頭がどんなものか興味深々。
そのうち、偶然にも『黒焼の研究』(小泉栄次郎著、大正10年)という本があることを知った。
とある古本屋のカタログに載ったのである。
ただちに注文したが、「売れてしまいました」という。
これに興味を持つ人がいることに驚いた。
だが、webcatで検索し、復刻版をある大学から借りることができた。
この本の冒頭に、いきなり「猿頭(サルノアタマ)」の黒焼きの写真が載っていた。
それによると、猿頭は頭痛に効くそうで、「一匁を白湯にて服用す」という。
(『黒焼の研究』復刻版に掲載されている「猿頭」)
一方、『農業世界』という雑誌(第33巻・第13号、昭和13年)に、「黒焼の薬効と其の製造法」という記事があることを発見した。
著者は「東京神田末広町黒焼商」の菅俣吉之助という人で、「この方法によれば素人にも出来ます」とある。
ここにも「猿頭(さるのあたま)」があり、「血の道、脳病」に効くようである。
また、「猿の頭の黒焼 右にあるのは焼かぬ前」という、猿の生首と黒焼きにされた猿の写真が並べて掲載されている。
(『農業世界』に掲載されている「猿頭」)
まあ、普通なら「これくらいで十分」となるのだが、予期せぬ時に予期せぬ場所で「猿頭」問題が再燃した。
それというのも、2010年10月に宇都宮で行われた精神医学史学会に参加した折、市内で猿頭を売っている(?それとも、展示のみ?)店に出くわしたからである。
学会のスケジュールの関係で、店が開いている時間に店に行けず、店が開いていた時にはもう新幹線が出る時間で、あわてて撮った写真が1枚あるだけだが、ご覧いただこう。
おそらく、栃木県庁周辺にお勤めの方は、毎日ご覧になっていることだろうが・・・
店頭に「猿頭」の文字がある。だが、「ショーケース」が閉まっていて、猿は見られない。
新幹線の時間を気にしながら、撮った一枚。
2010.11.09 Tuesday
『精神障害者問題資料集成』
(『精神障害者問題資料集成』のパンフレット)
これも宣伝めいているが(というか宣伝そのものだが)、近々、不二出版より『精神障害者問題資料集成 戦前編 全9巻』(編者:岡田靖雄・小峯和茂・橋本明)という、精神医療・精神保健福祉を扱った一次的資料の復刻版が刊行される予定である。
詳しい内容は上のパンフレットのなかに書かれている。
そのうち刊行スケジュールだけを紹介すると;
第1回配本 2010年12月 本体75,000円+税
第1巻 I 初期資料
II 各地の「瘋癲人」取締規則等
III 巣鴨病院/松沢病院
第2巻 III 巣鴨病院/松沢病院(年報類)
第3巻 IV 公立精神病院
V 私立精神病院
第2回配本 2011年6月 本体75,000円+税
第4巻 VI 精神病者監護法および精神病院法
VII 諸外国の精神病者対策
第5巻 VIII 精神病者慈善救治会および日本精神衛生協会
IX 精神科看護
X 酒害
第6巻 XI 精神病学講義録/教科書
第3回配本 2011年12月 本体75,000円+税
第7巻 XII 統計(衛生局年報など)
第8巻 XII 統計
XIII 議会議事録
第9巻 XIV 司法精神医学その他
XV 植民地の精神病対策
以上である。
なにしろ、本体揃価格は225,000円+税というわけで、個人にはなかなか手が届かない値段である。
だが、すくなくとも精神医療の歴史を研究している者にとっては、極めて貴重かつ重要な資料集であることには間違いない。
各地・各大学の図書館で買ってくれることを期待したい。
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