映画『ナショナル・トレジャー』の冒頭ちかくで登場するのがアメリカ国立公文書館である。
ワシントンの中心部、あのFBIの近く。
ある精神医療史に関わることを知りたくて、この公文書館を訪れることになった。
インターネットで検索しているうちにわかったことは、どうやら私が見たい資料は、映画に出てくる、上の写真の建物とは全く別の場所にあること。
それは、メリーランド州のCollege Parkというところにあり、その名も「ArchivesII」というらしい。
なおも、インターネットで検索を続けると、ArchivesIIに公共交通機関で行くのは、少し面倒らしいこともわかった。
その日、ワシントンの中心街Metro Centerから地下鉄に乗って、Greenbeltという駅で下車。
公文書館に行く人がわんさといると思ったら、そいいう雰囲気の人は誰もいない。
Greenbeltの駅前から、がらがらのバスに乗り、ArchivesIIの建物の前で降りたのは、私ともう一人だけ。
事前に『研究者のためのアメリカ国立公文書館徹底ガイド』(仲本和彦著)を入手し、読んであった。
これは本当にお勧めの本である。
だが、あまりに「徹底ガイド」なので、読んでいくうちに「いろいろ手続きが大変そうだ、資料閲覧にまで到達できるのか」などと気になって、行く前にビビってしまうかもしれない。
自分はといえば、「これは大変かもしれない」という気持ちと、「現地にいけばなんとかなるや」という気持ちが半分半分だった。
そもそも、わからなければ職員に聞けばいいのである。
入館証の発行も割と簡単で、荷物チェックもクリアし、アーキビストの助けで資料の保管場所もあっさり判明。
日本で印刷して持っていった書誌情報が大いに役立った。
結局、朝9時すぎに入館し、諸手続きを終え、その日最初の資料閲覧の請求ができる10時、その2分前というぎりぎりのタイミングで、自分の見たい資料のリクエストが出せたのは幸いだった。
初回としては、実に最短コースである。
請求した資料が出てくるまで、たぶん1時間くらいだろう。
館内にあるカフェで待つことにした。
中庭がなかなかいい(上の写真)。
およそ1時間後に資料は出てきた。
思ったより少ないファイルで、気が抜けた。
これならすぐチェックできてしまいそう(まあ、あまり資料がないということだが)。
写真撮影の許可をとって、資料をどんどん写した。
作業も終わってFBI近くのホテルへ帰ろう。
バスの本数が少なく、ひたすらArchivesIIの玄関付近のベンチにすわって待つ(上の写真)。
やれやれ、やっと来た。
バスは建物の前で停車するのだろうと、少し様子を見ていたら、そのまま止まらずに行ってしまった!
待ってくれ・・・といって聞こえるわけがない。
がっくり。
また1時間くらい待つのか。
すると、冒頭でふれた映画にでてくるArchivesIと、このArchivesIIとを無料で結んでいるシャトルバスが来たではないか。
先ほどの『研究者のための・・・』には、そのことも書いてあったが、まったく忘れていた。
バスの運転手が言うことには、あと15分後くらいに、玄関前から出発するという。
ラッキーである。
ArchivesIまで行ってもらえれば、ホテルまで歩いて帰れる。
塞翁が馬。
そのバスに乗り込む時、私の真新しいアディダスのスニーカーを見て運転手が、“Oh, nice shoes!”だって。
その後、ひどい靴擦れに苦しめられることになるのだが。
2010.09.26 Sunday
図書館への旅(9) アメリカ国立公文書館
2010.09.10 Friday
『治療の場所と精神医療史』
研究会でこれまで調査したことをまとめた本が、日本評論社より出ました。
以下に目次を掲載していますのでご参照ください。
なお、著者割引を希望されるかたは、橋本(aha@ews.aichi-pu.ac.jp)までご連絡ください。
目次
はしがき
第1章
精神医療における場所の歴史
「そこにしかない」場所と「どこにでもある」場所[橋本 明]
はじめに──精神医療における治療の場所と場所性
1 ゲールにおける場所性の形成
2 わが国における治療の場所
3 西欧近代的な病院への憧憬と挫折
4 「どこにでもある」場所の普及──近代的な制度としての私宅監置
おわりに
第2章
湯治場における精神病治療
宮城県定義の「山中の癲狂院」[近藤 等]
はじめに
1 定義の地
2 定義の歴史
3 精神疾患療養の場としての定義温泉
4 西欧精神医学との遭遇──短期間の蜜月と長期間の反目
5 定義如来信仰との関係
6 定義の住民の受容
7 時代の変化と定義温泉の終焉
第3章
滝場の精神病者
群馬県の室田不動と瀧澤不動[橋本 明]
はじめに
1 戦前における群馬県の精神医療史
2 文献にみる室田不動
3 榛名山麓の室田不動を訪れて
4 文献にみる瀧澤不動
5 粕川上流の瀧澤での現地調査
おわりに
第4章
地域によって異なる「参籠」のかたち
千葉県の場合[板原和子]
はじめに
1 市川市内の3つの寺院について
(1) 正中山法華経寺
(2) 原木山妙行寺
(3) 宮久保山高圓寺
(4) 市川の3つの寺院から見えること
2 長国山鷲山寺(茂原市)
3 仙瀧山龍福寺(旭市)
おわりに
第5章
山里に暮らす精神病者
静岡県竜爪山穂積神社の場合[橋本 明]
はじめに
1 竜爪山と精神病治療
2 静岡県の精神医療史
3 平山での聞き取り
4 穂積神社のトポグラフィー
おわりに
第6章
「水治療」からは見えないこと
富山県大岩山日石寺の場合[兵頭晶子]
はじめに
1 問い返された瞬間
2 大岩の歴史
3 精神病学のまなざし
4 精神病者の参籠と大岩という地域──「民間治療場」であることの意味
5 滝に打たれるということ
6 転機と現在
おわりに──そして、再びあの問いへ
第7章
精神病者預かりを可能にしたもの
京都府岩倉の場合[中村 治]
はじめに
1 岩倉において精神病者の受け入れが始まった時期
2 付添いなしに受け入れるようになった時期
3 茶屋・農家における精神病者預かりの生き残りと繁栄
4 岩倉において精神病者預かりを可能にしたもの
(1)地理的な理由
(2)経済的な理由
(3)人を預かることに対する慣れ
おわりに
第8章
霊場生駒山地の一民間療法
戦前大阪府下の精神病者収容施設「星田妙見道場」[板原和子]
はじめに
1 文献から見える「菖蒲が滝地域」
(1) 明治以前の「菖蒲が滝地域」
(2) 昭和初期の栗山一夫の現地調査より
2 「菖蒲が滝地域」を訪ねる
(1) 斉藤愛映氏を訪ねる
(2) 永徳寺を訪ねる
おわりに
第9章
民間治療場から精神病院へ
徳島県阿波井神社の場合[兵頭晶子]
はじめに──精神病院へ転化するということ
1 徳島県阿波井神社の歴史と病者の参籠
2 阿波井島保養院の設立
3 阿波井島保養院の実態
4 兵庫県阿波井神社との対比
おわりに──場所性の喪失が問いかけていること
あとがき
(C) 2024 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.