近代日本精神医療史研究会

Society for Research on the History of Psychiatry in Modern Japan
図書館への旅(9) アメリカ国立公文書館



映画『ナショナル・トレジャー』の冒頭ちかくで登場するのがアメリカ国立公文書館である。
ワシントンの中心部、あのFBIの近く。

ある精神医療史に関わることを知りたくて、この公文書館を訪れることになった。
インターネットで検索しているうちにわかったことは、どうやら私が見たい資料は、映画に出てくる、上の写真の建物とは全く別の場所にあること。
それは、メリーランド州のCollege Parkというところにあり、その名も「ArchivesII」というらしい。
なおも、インターネットで検索を続けると、ArchivesIIに公共交通機関で行くのは、少し面倒らしいこともわかった。

その日、ワシントンの中心街Metro Centerから地下鉄に乗って、Greenbeltという駅で下車。
公文書館に行く人がわんさといると思ったら、そいいう雰囲気の人は誰もいない。
Greenbeltの駅前から、がらがらのバスに乗り、ArchivesIIの建物の前で降りたのは、私ともう一人だけ。

事前に『研究者のためのアメリカ国立公文書館徹底ガイド』(仲本和彦著)を入手し、読んであった。
これは本当にお勧めの本である。
だが、あまりに「徹底ガイド」なので、読んでいくうちに「いろいろ手続きが大変そうだ、資料閲覧にまで到達できるのか」などと気になって、行く前にビビってしまうかもしれない。

自分はといえば、「これは大変かもしれない」という気持ちと、「現地にいけばなんとかなるや」という気持ちが半分半分だった。
そもそも、わからなければ職員に聞けばいいのである。

入館証の発行も割と簡単で、荷物チェックもクリアし、アーキビストの助けで資料の保管場所もあっさり判明。
日本で印刷して持っていった書誌情報が大いに役立った。
結局、朝9時すぎに入館し、諸手続きを終え、その日最初の資料閲覧の請求ができる10時、その2分前というぎりぎりのタイミングで、自分の見たい資料のリクエストが出せたのは幸いだった。
初回としては、実に最短コースである。



請求した資料が出てくるまで、たぶん1時間くらいだろう。
館内にあるカフェで待つことにした。
中庭がなかなかいい(上の写真)。

およそ1時間後に資料は出てきた。
思ったより少ないファイルで、気が抜けた。
これならすぐチェックできてしまいそう(まあ、あまり資料がないということだが)。
写真撮影の許可をとって、資料をどんどん写した。



作業も終わってFBI近くのホテルへ帰ろう。
バスの本数が少なく、ひたすらArchivesIIの玄関付近のベンチにすわって待つ(上の写真)。
やれやれ、やっと来た。
バスは建物の前で停車するのだろうと、少し様子を見ていたら、そのまま止まらずに行ってしまった!
待ってくれ・・・といって聞こえるわけがない。
がっくり。
また1時間くらい待つのか。

すると、冒頭でふれた映画にでてくるArchivesIと、このArchivesIIとを無料で結んでいるシャトルバスが来たではないか。
先ほどの『研究者のための・・・』には、そのことも書いてあったが、まったく忘れていた。
バスの運転手が言うことには、あと15分後くらいに、玄関前から出発するという。
ラッキーである。
ArchivesIまで行ってもらえれば、ホテルまで歩いて帰れる。
塞翁が馬。

そのバスに乗り込む時、私の真新しいアディダスのスニーカーを見て運転手が、“Oh, nice shoes!”だって。
その後、ひどい靴擦れに苦しめられることになるのだが。

| 図書館への旅 | 15:17 | comments(0) | - | pookmark |
『治療の場所と精神医療史』

 研究会でこれまで調査したことをまとめた本が、日本評論社より出ました。

 以下に目次を掲載していますのでご参照ください。

 なお、著者割引を希望されるかたは、橋本(aha@ews.aichi-pu.ac.jp)までご連絡ください。


目次

はしがき

第1章
  精神医療における場所の歴史
  「そこにしかない」場所と「どこにでもある」場所
[橋本 明]
  はじめに──精神医療における治療の場所と場所性
  1 ゲールにおける場所性の形成
  2 わが国における治療の場所
  3 西欧近代的な病院への憧憬と挫折
  4 「どこにでもある」場所の普及──近代的な制度としての私宅監置
  おわりに

第2章
  湯治場における精神病治療
  宮城県定義の「山中の癲狂院」
[近藤 等]
  はじめに
  1 定義の地
  2 定義の歴史
  3 精神疾患療養の場としての定義温泉
  4 西欧精神医学との遭遇──短期間の蜜月と長期間の反目
  5 定義如来信仰との関係
  6 定義の住民の受容
  7 時代の変化と定義温泉の終焉

第3章
  滝場の精神病者
  群馬県の室田不動と瀧澤不動
[橋本 明]
  はじめに
  1 戦前における群馬県の精神医療史
  2 文献にみる室田不動
  3 榛名山麓の室田不動を訪れて
  4 文献にみる瀧澤不動
  5 粕川上流の瀧澤での現地調査
  おわりに

第4章
  地域によって異なる「参籠」のかたち
  千葉県の場合
[板原和子]
  はじめに
  1 市川市内の3つの寺院について
    (1) 正中山法華経寺
    (2) 原木山妙行寺
    (3) 宮久保山高圓寺
    (4) 市川の3つの寺院から見えること
  2 長国山鷲山寺(茂原市)
  3 仙瀧山龍福寺(旭市)
  おわりに

第5章
  山里に暮らす精神病者
  静岡県竜爪山穂積神社の場合
[橋本 明]
  はじめに
  1 竜爪山と精神病治療
  2 静岡県の精神医療史
  3 平山での聞き取り
  4 穂積神社のトポグラフィー
  おわりに

第6章
  「水治療」からは見えないこと
  富山県大岩山日石寺の場合
[兵頭晶子]
  はじめに
  1 問い返された瞬間
  2 大岩の歴史
  3 精神病学のまなざし
  4 精神病者の参籠と大岩という地域──「民間治療場」であることの意味
  5 滝に打たれるということ
  6 転機と現在
  おわりに──そして、再びあの問いへ

第7章
  精神病者預かりを可能にしたもの
  京都府岩倉の場合
[中村 治]
  はじめに
  1 岩倉において精神病者の受け入れが始まった時期
  2 付添いなしに受け入れるようになった時期
  3 茶屋・農家における精神病者預かりの生き残りと繁栄
  4 岩倉において精神病者預かりを可能にしたもの
    (1)地理的な理由
    (2)経済的な理由
    (3)人を預かることに対する慣れ
  おわりに

第8章
  霊場生駒山地の一民間療法
  戦前大阪府下の精神病者収容施設「星田妙見道場」
[板原和子]
  はじめに
  1 文献から見える「菖蒲が滝地域」
   (1) 明治以前の「菖蒲が滝地域」
   (2) 昭和初期の栗山一夫の現地調査より
  2 「菖蒲が滝地域」を訪ねる
   (1) 斉藤愛映氏を訪ねる
   (2) 永徳寺を訪ねる
  おわりに

第9章
  民間治療場から精神病院へ
  徳島県阿波井神社の場合
[兵頭晶子]
  はじめに──精神病院へ転化するということ
  1 徳島県阿波井神社の歴史と病者の参籠
  2 阿波井島保養院の設立
  3 阿波井島保養院の実態
  4 兵庫県阿波井神社との対比
  おわりに──場所性の喪失が問いかけていること

  あとがき
| おしらせ | 23:38 | comments(0) | - | pookmark |
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
LINKS
PROFILE