2008.10.30 Thursday
『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』を読もう(その27)
『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』に書かれた穂積神社のつづきを見てみよう。以下は第116例として紹介されているもので、学生が訳した“現代語訳”の全文である。
第百十六例
○○県○○郡○○見村字○松。農民。井○幸○。28歳。
資産 中程度の生活を営む。
発病及び経過 3年前に妻に向かって斧を投げつけ頭部を傷つけたが、すぐに悔やんで自首したことがある。そのとき以来、病気はだんだん進み、明治44年7月12日から当所で治療を試みている。
収容の場所 前記の第1棟の左の部屋にいた。
室内の様子 器具としては1つの布団のほかに食器を収める膳が1つあり、また炉の上に古い土瓶などを置いた。いずれも良く整っていた。部屋はすすと煙によってひどく汚れていたが、その構造は普通の住まいと違わないので採光・換気などは良好である。便所は部屋の左側にある。洗面所の設備はないが、患者は潔癖があり、毎朝廊下で父親の運んでくる手水で清潔に顔を洗う。
家人の待遇 患者は応答には時間がかかるが要点を失うことはなく、記憶力も比較的良好である。一日中いろいろな仕事に手を出すが完成させることはできない。たとえば、父親がまきを割っているのを見れば近づいてこれを手伝うが、すぐにやめて今度は草取りをする、かと思えば草履を作ろうとする、といった具合である。仕事をやりつつ時々「クイ」「スクッスクッ」「ちくしょう」などいわゆるののしり語を突然発し、顔をゆがめ首を振るなどチック病者に見られるような病状を示し、一方には軽度の拒絶症があってこれを写真撮影を求めても応じてくれない。
実父は患者の付き添いとして常に生活をともにして熱心に看護に従事する。患者は潔癖があるために、夏季にはほとんど毎日のように沐浴する。屋外運動は患者の自由に任せている。
以上、略述したように当所の精神病者収容数は少数で、その設備も都市のそれに比べてほとんど論ずるほどの価値がないとはいえ、土地が高くて湿気が少なく、夏の極暑の時期にも清涼であり、部屋の構造・採光・運動等すべての点において他の監置室に普通に見られるような弊害はない。(明治44年8月水津信治視察報告)
(祈祷所。湯祈祷に使用するお湯を沸かす釜が見える。)
第百十六例
○○県○○郡○○見村字○松。農民。井○幸○。28歳。
資産 中程度の生活を営む。
発病及び経過 3年前に妻に向かって斧を投げつけ頭部を傷つけたが、すぐに悔やんで自首したことがある。そのとき以来、病気はだんだん進み、明治44年7月12日から当所で治療を試みている。
収容の場所 前記の第1棟の左の部屋にいた。
室内の様子 器具としては1つの布団のほかに食器を収める膳が1つあり、また炉の上に古い土瓶などを置いた。いずれも良く整っていた。部屋はすすと煙によってひどく汚れていたが、その構造は普通の住まいと違わないので採光・換気などは良好である。便所は部屋の左側にある。洗面所の設備はないが、患者は潔癖があり、毎朝廊下で父親の運んでくる手水で清潔に顔を洗う。
家人の待遇 患者は応答には時間がかかるが要点を失うことはなく、記憶力も比較的良好である。一日中いろいろな仕事に手を出すが完成させることはできない。たとえば、父親がまきを割っているのを見れば近づいてこれを手伝うが、すぐにやめて今度は草取りをする、かと思えば草履を作ろうとする、といった具合である。仕事をやりつつ時々「クイ」「スクッスクッ」「ちくしょう」などいわゆるののしり語を突然発し、顔をゆがめ首を振るなどチック病者に見られるような病状を示し、一方には軽度の拒絶症があってこれを写真撮影を求めても応じてくれない。
実父は患者の付き添いとして常に生活をともにして熱心に看護に従事する。患者は潔癖があるために、夏季にはほとんど毎日のように沐浴する。屋外運動は患者の自由に任せている。
以上、略述したように当所の精神病者収容数は少数で、その設備も都市のそれに比べてほとんど論ずるほどの価値がないとはいえ、土地が高くて湿気が少なく、夏の極暑の時期にも清涼であり、部屋の構造・採光・運動等すべての点において他の監置室に普通に見られるような弊害はない。(明治44年8月水津信治視察報告)
(祈祷所。湯祈祷に使用するお湯を沸かす釜が見える。)