近代日本精神医療史研究会

Society for Research on the History of Psychiatry in Modern Japan
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『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』を読もう(その34)
 論文の「民間療方ノ実況」には、仙台市青葉区の定義(じょうぎ)温泉もとりあげられている。
 アクセス解析によれば、「定義温泉」を検索語にしてこのブログに到達するケースが絶えない。いまでも一番多い。一部の人々の間では、よほどの「秘湯」になっているらしい。けれども、検索した人の中で、おそらく入湯できた人は、一人もいないだろう。
 それはともかく、論文の現代語訳(一部省略)は以下の通り。

 定義温泉(宮城県宮城郡大澤村大倉)この温泉は一名大倉温泉とも呼ばれ、仙台市から山道を七里行ったところにある。(中略)石垣長左衛門一家がここで旅館を経営している。温泉は一里離れた定義村まで人家がないところに立地し、閑静・幽邃であり、静養に適している。温泉の自然温度は、摂氏三十七度、すなわち専門家が持続温浴療法に最も適当とする温度に全く一致するのは奇妙である。この温泉が精神病者に効き目があることはすでに五十年前から認められていた。現在は、この地方で広く知られ、近くの県の精神病者もこの場所に集まる。視察時に見たのは、麻痺性痴呆二人、躁状態二人、早発性痴呆六人、神経衰弱三人、抑うつ状態二人、白痴一人、胃病患者三人である。これらの精神病者にはたいてい二、三人の家族が付き添ってきており、男女が病者とともに入浴をする状態は、とても奇妙な光景である。かつて中村(古峽)文学士は仙南仙北温泉游記において「定義癲狂村」と題してこの地を紹介した。(中略)定義温泉は精神病者の民間水治療法場として理想に近いものである。(大正六年下田光造視察報告)

中村古峽『仙南仙北 温泉游記』より

 上記の中村古峽は、『仙南仙北 温泉游記』(1916年、大正5年)で「定義温泉には狂人が澤山入つてゐると聞いて来ただけに、何処となく陰気臭い」と書き出している。しかし「此の陰気臭い定義温泉ほど、僕の創作的気分を誘ったところは外にはなった」ため仙台にもどるところを、急遽ここに一泊することになったのだという。さらに「入って見ると湯は非常に温い。摂氏三十八度と云ふのだから、然もあらうとは思はれる。一体此の湯は往昔出羽の国東根村の住人、桶屋何某なるものゝ娘とかゞ、霊夢の神託によつて其の永年の眼病を癒したがために、夙くから眼の湯として世間に知られてゐたのださうが、何時の頃からか脳病特に精神病に効験あることが評判になつて、定義の気狂湯など呼ばれるやうになり、今では主として頭脳に疾病ある人が集まつて来るやうになつたと云う。僕考えるに、湯が此の温さでは一旦入ると容易に出る気にならない。従つて浴客はどうしても長湯をする。其れが知らず知らず学理に適つて、(精神病学上、微温湯の持続浴は諸種の興奮性患者に対し、最も確実の効験ある物理的療法と認められてゐる)病気に好い結果を齎すことゝなるに相違ない。」 と。
 呉・樫田論文に書かれた下田光造の報告は、相当程度、中村の記述を参考にしていると考えられる。
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