近代日本精神医療史研究会

Society for Research on the History of Psychiatry in Modern Japan
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尾道の古寺めぐりと精神医療史

このところ世間では、「何とか細胞」の存在の有無をめぐって騒がしい。
その手の実験には、何億円(何十億円、何百億円?)も研究費が投入されているらしい。
それに比べたら、当方の研究費など、電子顕微鏡でも確認があやしい塵のようなものである。
その、なけなしの2万円余りの今年度執行残をすべて(!)投入し、尾道へプチ調査に出かけた。

名古屋から「のぞみ」で福山、福山から山陽本線で尾道まで。
尾道は初めてだ。
瀬戸内海に面した坂の多いレトロな街、というイメージくらいしかなかった。

私の精神医療史の情報源は、だいたいいつも同じである。
今回も、以前の木野山神社調査と同じく、内務省の『精神病者収容施設調』(昭和4年7月末日現在)である。
その「精神病者ヲ主トシテ収容スル神社・寺院・瀑布・温泉其他保養所」の広島県の欄に、「尾道市十四日町」(現在は住居表示が変更されている)の「妙宣寺」が出ている。
精神病者の「収容定員」は、「五」とある。
日蓮宗のお寺である。

プリントしてきた地図をたよりに、尾道駅から山陽本線沿いに福山方面にむかって歩く。
観光名所の類には目もくれず、一気に妙宣寺をめざす。


(JR山陽本線沿いに歩く。)

「千光寺山ロープウェイ」の山麓駅あたりで地図を確認すると、妙宣寺は近い。
「古寺めぐり」の石造りの道標にも妙宣寺がでてきたと思うと、すぐに寺の入り口があった。


(妙宣寺)

境内に入ったが、さてどうするか…
なんとなく「格式の高さ」を感じて、いきなりインターフォンを押すのがためらわれた。
しばらく、庭をうろうろし、写真を撮りながら「戦略」を考える。
すると、離れのお堂を掃除している婦人が二人。
そのうちの一人が「今日はお祭りで」と話しかけてきた。
これ幸いと、「寺の昔のことを知っている人はいませんか」と切り出す。
結局、その人からはじまって、二、三人を経由して、この寺の直接の関係者に話を伺うことになった。

かつては、精神病者が(おそらく家族を伴って)治療のために寺に「お籠り」していたということである。
精神病者の滞在は戦後もしばらく続いており、戦後の一時期は、戦争引揚者にも部屋を提供していたという。
患者の多くは、日蓮宗信者の人づてで広島県下から集まってきたらしい。
家族は患者を精神病院に入れるよりも、寺に預けることを望んだようである。

(ちなみに、妙宣寺とはまったく無関係だが、広島精神衛生協会編『広島県精神衛生鑑定報告』昭和26年7月には、興味のある鑑定例として、「発病当時家族は気が変な様だと思ったが精神病院へ入れるのは可愛相だと近所の寺に預けた処…」という記述がある。当時の精神病院と寺との関係が伝わってくる。)

この寺の開基は14世紀の半ばと言われるが、患者を盛んに預かりはじめたのは恐らく近代以降ではないかと推察する。
確たる根拠はないが、日蓮宗寺院における精神病治療については、明治20年頃から精神病者の参籠が増えだしたという千葉県の原木山妙行寺、明治33年から精神病者の収容を始めたという東京・芝の長久寺、明治39年に山梨県・身延の大善坊に設立された身延山功徳会、などを思い浮かべるからである。

尾道の「古寺めぐり」は多くの寺院(神社もある)で構成されているが、日蓮宗は妙宣寺くらいのようである。
しかも、それ以外の寺院における精神病治療の形跡は(少なくとも文献上は)ない。
以前このブログで、精神病の二大治療法(つまり滝か、修法・加持祈祷か)に宗派の違いはあまり関係がないのでは、と書いた。

しかし、病気治療に対する「意気込み」は、宗派によって異なりそうだ。
こと日蓮宗については、病気治療に積極的に関わろうというポリシーが見える。
そのポリシーに沿って、各地の日蓮宗寺院は精神病者の治療を少なからず引き受けていたと言えるかもしれない。
その背景として信者獲得という戦略も考えられるが、今後の研究課題として提起するにとどめたい。

さて、調査の話はこれまで。
妙宣寺を後にして、せっかく尾道に来たのだから「古寺めぐり」をすることにした。
下の地図にあるように、「古寺めぐり」のルートはよく整備されている。


(「古寺めぐり」地図の一部)


(天寧寺附近から向島を望む。尾道は猫の撮影スポットらしい。)

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