近代日本精神医療史研究会

Society for Research on the History of Psychiatry in Modern Japan
愛媛県におけるプチ・フィールドワーク(神道修成派教務支局の旧跡)

精神医療史の研究者にとって、呉秀三の論文「我邦ニ於ケル精神病ニ関スル最近ノ施設」(1912年)はいわばバイブルである。
これまでにも、この論文の記述を手がかりに各地を巡ってきた。
というか、巡らせる気持ちを掻き立てる、「罪な」論文なのである。

せっかく愛媛県立図書館に行くのだから、愛媛県ゆかりの「治療の場所」も訪れたい。
上記の呉論文に「神道修成派教務支局(愛媛県新居郡船木村字関ノ峠・・・」なるものが登場する。
それによると、安政元年生まれの鴻上宗之助なる人物が、関ノ峠に精神病者の収容施設を作っていた。
それというのも、宗之助自身が1880(明治13)年に精神病を患ったが、神道修成派に入り信仰によって治癒した経験から、自宅に患者を集めて病気治療を行うことになったという。
それ以来、200人余りの患者を治療した。
だが、施設は狭隘であり、県道に面して通行人も多く、1910(明治43)年に宗之助が患者に頭部を殴打され3週間の休業を余儀なくされることがあったりして、愛媛県から新たに患者を収容することを禁じられた、と。

論文の記述はこれくらいである。
私が調べた限りでは、呉論文以外で「神道修成派」が精神医療史の世界で扱われたことはない。
そもそも神道修成派とは、新田邦光(にった・くにてる)を教祖とし、明治政府が公認したいわゆる教派神道13派の一つである(ウェッブ上のにわか勉強)。
ただ、病気治療への積極的な関わりはないようだ。
教義云々よりも、むしろ鴻上宗之助の個人的な関心が精神病治療につながった可能性が高い。
やはり現地に行ってみよう、と思った。


(JR予讃線・関川駅)

朝8時20分、松山発の各駅停車・観音寺行きに乗る。
2時間半かかって関川駅到着。
当然無人駅とは予想していたが、周囲に商店の類いは一切ない。
予定ではタクシーでも使おうと思ったが、面倒だ、雨も強くなってきたが、荷物を抱えて歩くことにした(いつもこうなる)。

まずは、四国中央市と新居浜市の境界にある関ノ峠に通じる国道11号線をめざす。
適当に歩いて国道に出ると、新居浜方面に向かってひたすら歩く。
大型トラックが頻繁に往来し、そのたびに水しぶきがかかる。



(関ノ峠。右が国道11号線、左が旧道。)

45分くらい歩いて、関ノ峠に到達。
ここらへんには鴻上さんというお宅が多い。
そのうち最も古そうな家を訪ねたが、「峠の気違い病院」は初めて聞いた、「鴻上宗之助」は知らない、というお話だった。
神道修成派も話題にならなかった。
ただ、地元の公民館が発刊した『船木物語』(2003年)という本をいただいた。
そこには、関ノ峠の記述もある。
かつて峠には茶屋や宿屋があって栄えたらしい。
金比羅参りや霊場めぐりの巡礼者など、さまざまな人々が行き交う場所に精神病者収容所があったことになる。
このような土地のホスピタリティが、精神病者収容につながったのかも知れない。
けれども、呉論文にあるように「通行人が多い」という理由で、県から精神病者収容にクレームがついたのは皮肉な話ではある。


(関ノ峠近くの旧道にある「四国のみち」の碑)

そんなわけで学術上の決定的な収穫はないのだが、四国の道を歩けてよかったと言うべきだろう。
なにかご利益があるのだろうか。
お遍路とは程遠いものの。

| プチ調査 | 09:06 | comments(0) | - | pookmark |
図書館への旅(15)愛媛県立図書館

(愛媛県立図書館の裏手から、急峻な山に鎮座する松山城がよく見える)

毎年この時期になると、少し遠くの図書館に行きたくなる。
去年は島根県だった。
今年は愛媛県。
愛媛県に足を踏み入れるのはこれが初めてではないか。

愛媛県立図書館には過去に世話になったことがある。
かつて全国の公立図書館に問い合わせて、精神病者監護法の施行手続を集めようとしたことがある。
愛媛県からの回答は、「資料はあるが、コピーをするには来館してもらう必要がある」というものだった。
だが、名古屋から松山までは、そう簡単には行かれない・・・

グズグズしていたら、お情けか何かは知らないが、図書館からコピーが送られてきた。
遠方から呼びつけるのも不憫に思ったのかもしれない。
それ以来、愛媛県立図書館には親近感を持っているのだ。


(NHKのドラマ「坂の上の雲」のポスターが・・・)

図書館での文献調査のポイントはいくつかある。
ひとつは愛媛県に戦前からある(戦前にあった)精神病院について。
また、松山、今治、宇和島にあったという精神病者収容所・監置室について。
さらには、呉秀三の1912年の論文に掲載され、現在の新居浜市にあったと考えられる神道修正派の施設での精神病治療について。
これらの調査結果については、いずれ何らかの形で公表することになるだろう。


(図書館の近くで見つけた「正岡子規誕生邸址」の碑)

ところで、蛇足をひとつ。
図書館での作業に先立ち、昼ごはんをたべようと街をぶらついた。
ファーストフードでいいやと思っていたのだが、これがなかなか見つからない。
やっとミスタードーナツを見つけた。
そこを目指していく途中、「正岡子規誕生邸址」という石碑に出くわし、思わず写真を撮った。
NHKの「坂の上の雲」で子規を演じた香川照之に、なぜか私が似ているということになっていて(近所の歯医者の受付で言われたくらいだが)、最近は子規に親しみを感じているところである。
| 図書館への旅 | 23:29 | comments(0) | - | pookmark |
『精神障害者問題資料集成 戦前編』の第7巻〜第9巻刊行される

『精神障害者問題資料集成 戦前編』(編集:岡田靖雄・小峯和茂・橋本 明)の第7巻〜第9巻が刊行された。
これで、資料集成シリーズは完結したことになる。


目次一覧

第7巻
 

XII 統計
[衛生局年報など]

第8巻 

XII 統計
精神病者調査票記入参考
精神病者地方別表
精神病ニ関スル統計
精神病者収容施設調

XIII 議会議事録
[精神病者監護法・議事録]
[精神病院法・議事録]

第9巻 

XIV 司法精神医学その他
犯罪と精神異状(司法警察官吏訓練資料)
精神病保護施設に就て(資料第弐拾弐号)
昭和拾五年度 麻薬中毒者救護会年報

XV 植民地の精神病対策
大連に於ける精神病患者統計
昭和九、十年度 年報(台湾総督府養神院)

以上。


出版元の連絡先は;

六花出版
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町1-42
TEL 03-3293-8787
FAX 03-3293-8788
e-mail  rikka.press@gmail.com

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